人工肛門や新膀胱の造設で障害年金はもらえる?受給のポイントを解説

はじめに

人工肛門や新膀胱の造設により日常生活に大きな変化が生じた方々にとって、障害年金は重要な経済的支援制度です。多くの方が身体障害者手帳では4級に認定されるため、障害年金の対象外だと誤解されているケースが見受けられます。しかし、障害年金制度では独自の認定基準があり、適切な申請により年金受給が可能となる場合があります。

本記事では、社会保険労務士として人工肛門・新膀胱造設における障害年金申請の要点を詳しく解説いたします。

人工肛門・新膀胱の造設は障害等級3級に該当する

障害年金では人工肛門や人工膀胱、尿路変更術を施したものは「3級」として認定されています。これは身体障害者手帳の認定基準とは異なる重要なポイントです。

人工肛門又は新膀胱を造設したもの若しくは尿路変更術を施したものは3級と認定されますが、以下の場合には2級認定となります:

  • 人工肛門を造設し、かつ、新膀胱を造設したもの
  • 人工肛門を造設し、かつ、尿路変更術を施したもの
  • 人工肛門を造設し、かつ、完全排尿障害状態にあるもの

この認定基準により、単独の人工肛門造設では3級、複数の処置を併用する場合は2級となる可能性があります。

障害年金とは?

障害年金は、病気やけがにより日常生活や就労に支障が生じた方に支給される公的年金制度です。国民年金に基づく障害基礎年金と、厚生年金に基づく障害厚生年金の2種類があります。

障害年金は2級に認定されれば少なくとも年間83万1700円、3級に認定されれば少なくとも年間62万3800円が支給されます。これらの給付額は、オストメイトの方々の生活を大きく支える制度となっています。

障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象の範囲が広い

障害基礎年金の対象者が支給されるのは障害等級1級と2級のみです。つまり、初診日に国民年金に加入していた方は、原則として3級認定では障害年金を受給できません。

一方、初診日に厚生年金に加入していた方は、3級認定でも障害厚生年金を受給することができます。この違いは、人工肛門・新膀胱造設による障害年金申請において極めて重要な要素となります。

障害年金における3つの受給要件

障害年金を受給するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

初診日要件

初診日とは障害の原因になった傷病で、初めて医師等の診察を受けた日のことです。人工肛門・新膀胱造設の場合、原因疾患(大腸がん、直腸がん、膀胱がんなど)で最初に医療機関を受診した日が初診日となります。

初診日の確定は、加入していた年金制度の特定や保険料納付要件の確認において重要な基準日となります。

保険料納付要件

初診日のある月の前々月までの加入期間について、保険料納付期間と免除期間を合算した期間が加入期間の3分の2以上あること。または、初診日が令和8年4月1日前、かつ、初診日が65歳の誕生日の前々日までの場合、初診日の前日の時点で、初診日の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないことが必要です。

この要件を満たさない場合、障害年金の受給資格を得ることができません。保険料の納付状況については、年金事務所で確認することが可能です。

障害状態該当要件

障害認定日または現在において、法令に定める障害の状態に該当していることが必要です。人工肛門・新膀胱造設の場合、前述の認定基準に基づいて等級判定が行われます。

人工肛門・新膀胱の造設、尿路変更術における障害認定日の特例

人工肛門・新膀胱造設における障害認定日は、一般的な「初診日から1年6か月経過日」とは異なる特例が適用されます。

ケース1.人工肛門を造設し、なおかつ新膀胱も造設したとき

初診日から1年6ヶ月以内に人工肛門と人工膀胱(除く新膀胱)の手術を行った場合の障害認定日は、下記A、Bのいずれかの早い日となるとされています。具体的には、各手術から6か月経過した日のうち、より早い日が障害認定日となります。

ケース2.人工肛門を造設し、なおかつ尿路変更術を施したとき

人工肛門造設から6か月経過した日と、尿路変更術施行から6か月経過した日のうち、いずれか早い日が障害認定日となります。ただし、初診日から1年6か月以内の場合に限ります。

ケース3.人工肛門を造設し、なおかつ完全排尿障害状態にあるとき

人工肛門造設から6か月経過した日が基本となりますが、完全排尿障害の状態により総合的に判断されます。カテーテル留置や自己導尿が常時必要な状態が該当します。

初診日に国民年金の加入者であっても障害年金を受給できるケース

初診日に国民年金の被保険者であった場合には、次のような場合に認定されることになります:

  • 人工肛門を造設し、かつ、新膀胱を造設した場合
  • 人工肛門を造設し、かつ、尿路変更術を施した場合
  • 人工肛門を造設し、かつ、完全排尿障害状態にある場合

これらの場合は2級認定となるため、初診日に国民年金加入者であっても障害基礎年金の受給が可能となります。

就労していると障害年金は受給できない?

障害年金と就労の関係について誤解が多く見られますが、就労していることが直ちに障害年金の受給要件に影響するわけではありません。

障害年金は、日常生活や就労における支障の程度を総合的に判断して等級認定が行われます。人工肛門・新膀胱造設の場合、ストーマ管理の必要性や身体機能の制約を考慮した認定が行われるため、就労の有無よりも障害の状態そのものが重要な判断基準となります。

ただし、障害厚生年金3級については、「労働に著しい制限を受ける」状態が要件となっているため、就労状況も一定程度考慮されます。

障害年金の申請手続きの流れ

障害年金申請の窓口は、初診日に国民年金加入していた場合と厚生年金や共済年金加入していた場合とで異なります。国民年金加入の場合は市区町村の国民年金課であり、厚生年金や共済年金加入の場合は年金事務所となります。

申請手続きの基本的な流れは以下の通りです:

  1. 年金事務所または市区町村窓口での相談
  2. 必要書類の受け取りと作成依頼
  3. 診断書の医師による作成
  4. 病歴・就労状況等申立書の作成
  5. その他必要書類の準備
  6. 申請書類一式の提出
  7. 日本年金機構による審査
  8. 認定結果の通知

申請から結果通知まで、通常3~4か月程度の期間を要します。

診断書を医師に作成してもらうためのポイント

診断書は障害年金申請において最も重要な書類です。適切な診断書の作成により、正確な等級認定を受けることができます。

適切な診断書の様式を選ぶ

人工肛門・新膀胱造設の場合、「その他の疾患用」の診断書様式を使用します。この様式では、ストーマの種類、管理状況、日常生活への影響などが詳細に記載されます。

消化器系の疾患が原因の場合でも、人工肛門造設後の状態については「その他の疾患用」を使用することが一般的です。

作成してもらった診断書は自分でチェックする

医師に作成いただいた診断書は、提出前に必ず内容を確認しましょう。特に以下の項目については重点的にチェックが必要です:

  • ストーマの種類と造設年月日の正確性
  • 併存する処置(新膀胱造設、尿路変更術等)の記載
  • 日常生活における具体的な支障の記載
  • 一般状態区分の適切な評価
  • 治療内容と今後の見通し

記載漏れや不正確な情報がある場合は、医師に修正を依頼することが重要です。

初回無料相談実施中!

人工肛門・新膀胱造設による障害年金申請は、医学的知識と年金制度の専門知識を要する複雑な手続きです。申請をご検討の方は、障害年金専門の社会保険労務士にご相談されることをお勧めいたします。

当事務所では、人工肛門・新膀胱造設による障害年金申請について初回無料相談を実施しております。お一人お一人の状況に応じた最適な申請方法をご提案いたします。

おわりに

人工肛門・新膀胱の造設により生活に大きな変化が生じた方々にとって、障害年金は重要な支援制度です。身体障害者手帳の等級とは異なる認定基準により、多くの方が年金受給の可能性があります。

特に初診日の年金制度や複数処置の有無により、受給できる年金の種類や等級が大きく変わることをご理解いただければと思います。障害認定日の時に法令に定める障害の状態に該当しなかった方でも、その後症状が悪化し、法令に定める障害の状態になったときは事後重症という形で請求ができますので、現在の状態で申請を諦める必要はありません。

適切な申請により、経済的な支援を受けながら安心した生活を送ることができるよう、専門家のサポートを受けながら手続きを進めることをお勧めいたします。

 

最終更新日 3日

投稿者プロフィール

但馬 彰
但馬 彰Ray社労士オフィス 代表 社会保険労務士
私には身体障害者手帳と療育手帳を持つ子どもがおり、障害者手帳を受け取った際の悩みや不安、孤独感を今でも鮮明に覚えています。
複雑な日本の社会保障制度の中でも、特に専門性を必要とするのが障害年金です。

この経験と社会保険労務士としての知識や経験を活かし、「同じ悩みを抱える方々の一筋の光となりたい」という強い想いのもと、Ray社労士オフィスを立ち上げました。

障害年金申請のサポートはもちろん、皆様の言葉に耳を傾け、心配事や将来の不安を解消し、安心して暮らせる明日を築くお手伝いをいたします。どうぞお気軽にご相談ください。
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